【あん】言葉はいらない、素敵な作品【樹木希林・永瀬正敏】

『あん』のあらすじ

【キャスト】

樹木希林、永瀬正敏、内田伽羅、市原悦子、浅田美代子、水野美紀他

【あらすじ】

どら焼き屋「どら春」から生まれる人間模様を描く、ドリアン助川原作の映画。

仕方なく雇われ店長として働く千太郎。失敗作をおこぼれでもらう常連のワカナ。自身の作ったあんを差し出し、ここで働きたいと懇願する徳江。

目を見張るような美味しさのあんを口にして、千太郎は徳江を雇うことに。おかげで店も繁盛し、賑やかで明るい空気に包まれる。

しかし徳江はハンセン病という噂から徳江、千太郎、店の運命は暗転していく…。

『あん』のみどころ

・人生の哀しみを丁寧にあぶり出すストーリー

 

・登場人物の心模様を彩る自然の美しさ

 

・声、表情の一つ一つに見て取れる役者の演技力

人生の哀しみを丁寧にあぶり出すストーリー

社会から爪弾きにされた人々の、どうにもならない哀しみを丁寧にあぶり出しています。

店主千太郎は犯罪者、小豆への愛情をあんに封じ込める徳江はハンセン病。

登場人物はけっして華やかなヒーロー、ヒロインではありません。身近な存在、.とも言えないかもしれません。

しかし人はみな誰しも多少の影、闇を背負いつつ生きています。

逃げ、失敗、後悔、諦め…。

自分の心の中にあるそんな感情の一つが浮き上がってきたとき、この映画を是非見てほしい。

きっと千太郎や徳江の哀しみに寄り添い、この映画に入り込めると思います。

そして哀しみだけではなく、その中から見出す希望への道筋がこの映画にはあります。

学校の中で、職場の中で、育児の中で、やるせない気持ちを抱えどん底にいる時、花が、鳥が、自然が、そしてもしかしたらどこかの誰かが、そこに光を差し伸べてくれているかも知れない。

そんな希望と顔を見上げる力を与えてくれる映画です。

登場人物の心模様を彩る自然の美しさ

冒頭から桜の美しさに包まれます。

桜は、最初と最後のシーンで登場するのですが、主人公である千太郎の心模様は全く違います。

彼の見ている桜はそれぞれ違うのです。

私たちも桜にはいろいろな感情、人生の変化を重ね合わせて眺めることが多いと思います。

去年と今年、同じ桜なのに違う桜。

細やかな心模様と自然の交わりを独特のカメラワークや演技の中で味わえると思います。

声、表情の一つ一つに見て取れる役者の演技力

終盤は徳江、千太郎の告白、手紙が続きます。

このいわゆる顔のない演技の説得力がとてつもなく重く、深い。

互いの人生と哀しみが一気に脳内を駆け巡ります。

徳江のあんのおかげで店が繁盛し、ウキウキとしていた日々は一瞬のきらめきだったのだと思い知らされます。

『あん』のキャストの魅力

樹木希林

ハンセン病患者として長く自由を奪われていた徳江を演じています。

もはやドキュメンタリーかと思わせるほどの自然さで映画の中を「生きて」います。

監督によるとこの映画のためにあん作りを習ったり、まさに体から徳江を作り上げいったそう。

カメラもいつ回っているのかわからない。

カメラが回っていない所でも役になりきってもらう。

そういった河瀬監督の撮り方、「リアルを追求する」現場と樹木希林の相性は抜群です。

永瀬正敏

罪を犯し、出所、借金をして、仕方なく雇われ店長として働く千太郎を演じています。

喋らない時の表情、何かを聞いた時、見た時の顔の表情の変化が本当にリアルで、時に緊張感のあまり、こちらの息が止まってしまうほど。

この映画はストーリー進行に沿って撮影する、いわゆる順撮りのため、感情の変化、高まりがよりリアルに浮かび上がっていると思います。

ラストシーン、千太郎自身が人生の一歩前へと歩を進める場面。

晴れやかだけれどぎこちない。

これもまたリアルです。

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